呉服屋の若旦那に恋しました
「志貴っ……、ごめんなさい」
3カ月ぶりに聞く、彼女の細くて高い声は、俺の渇いた心を潤していくには、もう充分だった。
彼女は、俺を見た瞬間、泣きそうな顔をして謝って、ゆっくり俺に近づいてきた。
俺は、いまだに目の前にいるのが本当に衣都なのか、まだちゃんと理解できずにいた。
「志貴……これ、全部読んだ…、会えなかった理由も、藍ちゃんから聞いた……」
――もし、大切な誰かとの縁が、赤い糸で例えられるなら、
「あんなに酷いこと言って、本当にごめんなさいっ……」
それがもし衣都と繋がっているのなら、
「志貴を縛ってしまうことが怖くて、逃げてごめんなさいっ……」
俺はその糸を衣都に切られても、同じ場所でずっと待ってる。
「私、志貴がいないと、やっぱり駄目だよっ……、過去も何もかも全部知った上でも、それでも、志貴がいいっ…、志貴じゃないと、嫌なのっ……」
だってもしかしたら、
「志貴しかいないよ、私を守ってくれるのは志貴がいい、私も志貴を守りたいっ…、もう一度糸を結び直したいよっ……」
衣都が、ごめんねって泣きながら結び直しに来るかもしれないから――…
俺は、衣都の腕を引っ張って、思い切り彼女を抱きしめた。彼女の腕から、ノートが全てこぼれ落ちた。
風がまた雪柳を揺らし、ひらひらと俺たちの上に雪が舞い降りた。
「衣都……、もう俺といて、苦しくないか……?」
そう問いかけると、衣都は俺の胸の中でぶんぶんと首を縦に振った。
「苦しくないよっ…、志貴と会えない時は、会いたくて仕方なくて、死ぬほど苦しかったっ……」
「……過去のこと、結婚する前にちゃんと話そうと思ってた。でもやっぱり、過去を口にするのは怖くて、中々言いだせなかったんだ…ごめん……」
「いいの、もう、全部っ…、それでも自分の気持ちに、変わりは無いからっ…」
そう言って、彼女は俺の背中にまわした腕に、より一層力を込めた。