呉服屋の若旦那に恋しました



「志貴ー、五郎が吠えてるー」

「本当だな、なんだ発情期か?」

「そんな…志貴じゃないんだから……」

「ばかやろう。その時期はとっくに過ぎたわ」


仕事を終えて普段着(俺は浴衣だけど)に着替えて一息ついていると、衣都が五郎のことを心配していた。

もう日は暮れて20時だというのに、餌もしっかりグラムを測ってあげたのに、五郎はご機嫌斜めのようだ。

確かに大人しい五郎が吠えているのは珍しい。

俺は、障子を開けて、縁側から五郎の頭を撫でた。

衣都は、俺と同じようにしゃがんで五郎を心配そうに隣で見つめた。



「五郎お散歩行きたいのかな」

「いや違うね」

「否定はや」

「五郎さんはご主人さまが仕事終わりで疲れ切ってる時に散歩行きたいとか言う子じゃない」

「じゃあ衣都と行こうね、五郎」

「ちょっとマジで言ってんの衣都さん」

「いいよおっさんは休んでなよ」


衣都はそう言って、すぐ裏庭に出れるように置いてあったサンダルを履いて、五郎に首輪をつけた。

嘘だろ……これが8つ差の体力差ってやつか……。

動きたくない……マジで動きたくないさっさと風呂入って寝たいマジで寝たい本当に寝たい。

だけど、こんな夜中に衣都を1人で散歩に行かせるわけにはいかない……。

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