呉服屋の若旦那に恋しました


「中本さん娘さんと仲良いですか?」

「ええ、私の誕生日に二人で旅行を計画していて」

「わー、いいですねえ!」

「その日を励みにお仕事頑張らな思ってね」

「素敵ですうう」

「まあお仕事ゆうても、元々着物が好きやから、毎日楽しいんやけどね」


そう言って、中本さんはにっこりと微笑んだ。

……私もお母さんが生きていたら、2人で旅行とかしてみたかったな。

3歳の時に事故で亡くなってしまったから、お母さんの記憶はほとんどない。

家族写真に写っているお母さんしか、私は知らない。

私の家は少し複雑で、私は再婚してすぐに生まれた子供で、私のお姉ちゃんの藍ちゃんはお母さんの連れ子なので私とは血が繋がってない。

家族で唯一血の繋がりのあるお母さんがいなくなってしまったことは、私じゃ想像もつかないほどの悲しみだっただろう。

お母さんが生きていた頃の藍ちゃんは、信じられないくらい眩しい笑顔で笑っていた。(写真の中で見た限り)

私が物心ついたときには、藍ちゃんはあまり笑わない人だったから、私にしたら昔の藍ちゃんの方が違和感があった。

志貴の1つ上の藍ちゃんは、高校から寮制度の看護系の高校に進学し、そのまま看護師として現在も働いている。


ここ(京都)にいると、恨むことが多すぎるから。


そう言って藍ちゃんは家を出ていった。私はその時まだ6歳で、藍ちゃんの言葉の意味がよく分からなかった。

今思い出してみても、その真の意味は、まだ分かっていないのだけれど。

藍ちゃんがいなくなって、お父さんと2人暮らしをするようになって、志貴はますます私に対して過保護になっていったように思う。



「衣都が、ランドセル……」

「志貴兄ちゃん何泣いてるの?」

「志貴君、ハンカチ……」

「隆史さん、さっき渡したじゃないですかハンカチ……」

「もうびしょびしょや……」

「絞ってください俺のもびしょびしょです……」

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