呉服屋の若旦那に恋しました
……本当は、さっきの言葉、すごくすごくうれしかった。
志貴は、私のことをちゃんと見てくれている。分かってくれている。
こんなに理解してくれるほど、そばにいてくれた人に、8年前の私はどうしてあんなこと言っちゃったのかな。
「志貴、……あの時ごめんね」
「はあ?」
「私ずっとずっとそのこと謝りたくて……」
「いや待て待て待てどの時だよ」
「8年前」
「謝罪の気持ち寝かせ過ぎだろ」
「夜抜け出した私を、今日みたいに迎えに来てくれたのに、私酷いこと言っちゃって……」
「あー、なんとなく思い出せるような……」
「ごめんね、ありがとう」
「…………じゃあ」
「待って待って待って何その婚約指輪今どこから出したのドラえもんかよ」
「いい加減お前ももう諦めろ!」
「いやいやいや諦めて結婚っておかしいでしょ! もうちょっと待ってよ!」
「……待ったら答えが出るんだな」
「だ、出すから、ちゃんと。あと、私、ちゃんと浅葱屋で働く決心、ついたから。1年間だけかもだけど」
「……」
「最初はずっとバタバタしてて不満だらけのまま働いてたけど、私、ちゃんと働く決心は、ついたから」
「ほう」
「だから、よ、よろしくお願いします……」