呉服屋の若旦那に恋しました
私が思ってることを悟ったのか、志貴はもう一度ぺしっと私の頭を叩いた。
「痛いっ、志貴すぐ叩くっ」
「余計なこと考えてるからやろ」
「人の心勝手に読まないでっ」
「仲がいいのね、ふたりとも」
私と志貴がぎゃーぎゃー騒いでると、美鈴さんがくすくすと上品に笑った。
「じゃあ、私はこの辺で…」
「もう行かれるんですか」
「ええ、この後御稽古があって……」
「近くまで送っていきますよ。衣都、店番頼んだ」
「まあ、いいですのに……」
「いえ、送りますよ」
志貴はそう言って、美鈴さんと一緒に店から出て行った。
志貴の美鈴さんに対する態度は、明らかに他のお客様と違った。
もしかして、既に付き合ってたりする……?
いやいや、でも志貴は私と婚約するって言ってるし…。
もしや、政略結婚ゆえに私が二人の愛を邪魔してるとか……!?
本当は志貴は美鈴さんと結婚したいんじゃ……!?
ひとりで色々なことを妄想しているうちに、志貴が帰ってきた。
「なんやその表情は」
「志貴……もしかして、私が悪役……?」
「アホなこと言ってんと仕事しい」
「結婚を目前にしたふたりを引き裂きに来た女子大生とか……ドロドロすぎでしょ……」
「あー、なんか今日雨降りそうやな」
曇り空を見上げてそうつぶやく志貴が、心なしかなんだか切なく見えてきた……。
私は何だか鬱々とした気持ちのまま、その日の仕事を終えた。