呉服屋の若旦那に恋しました


だとしたら、今こんなにあなたのせいで心が乱されている私は、バカみたいじゃないか。


“衣都と一緒にいれる未来が、俺は欲しい”。


あの言葉の真意はなに?

どうしてあんなキスをしたの?


本当は、私のことをどう思ってるの?

ねぇ、志貴、教えて。




じーわじーわという何かの虫の鳴き声が、外から聞こえてくる。

真夏のうだるようなべっとりとした暑さが、寝苦しくさせた。

お風呂に入り、早々に布団に潜り込んだはいいものの、暑くてとてもじゃないけど寝れなかった。

この部屋にエアコンはないから、扇風機しか頼るものが無い。

私は、Tシャツにハーパンという格好で、布団も何もかも蹴飛ばして寝転がっていた。


「あっつい……」


じーわじーわという虫の鳴き声が、余計に暑さを助長する。

志貴は、美鈴さんと仕事の話をするために、今さっき彼女の家へ向かった。ついでに温泉旅行でのお土産も渡すと言っていた。

美鈴さんは、ここから歩いて10分くらいのところに住んでいるらしい。

場所を聞くと、そこは私が高校時代通っていた予備校の近くで、とても慣れ親しんだ場所だった。


「……いつ帰ってくるのかな」


……本当にあの二人は何もないのだろうか。

少なくとも美鈴さんは、分かりやすく志貴に好意を寄せてる。



眠れない。余計なことを考えてしまう。

私はのどの渇きを感じて、お茶を飲むために台所へ向かった。

縁側に出ると、五郎も暑いのか、ぐったりとしていた。けれど、私を見た瞬間、のろのろとこちらに近づいてきた。


「五郎、暑いねえ。今新しいお水持ってきてあげるからね」

< 91 / 221 >

この作品をシェア

pagetop