ラブレター2

ラッキーボーイ

もう、どれくらい、抱き締めているのだろう。

柔らかい風に乗って、背中越しから伝わる懐かしい香りに、永遠にも感じる、五秒の間。

よーい、スタート。と、映画の撮影が始まったように、引いては寄せて。を繰り返す波音だけが、夜空へ響いていた。

「キスから始まった恋なら、最後はキスで終わりたい。」

誰にも聞こえないくらいな声で、呟いていた。

「…何で?」

目の前から返ってくる声に、抱き締めていた腕を離し、あいの正面に立ち、両手を握りしめた。

「目を閉じて。」

ずっと下を向いたまま、目を合わせないあいがいて、ゆっくりと強引に、海へ落ちないように。と取り付けられてある丸太のフェンスに、体重を預けた二人の身体。

握っていた左手を、あいの首の方へ。

ついこの間まで、当たり前のように触れていたあいに、僕の震えた手がバレないように。

僕と君の、額と額が寄り添った。

「ねぇ…。」

「…うん?」

零れる吐息を、お互いが感じる距離に、深い海に朧気(おぼろげ)に照らされる下弦の月が、恥ずかしそうに、雲に隠れた。

そして、あいと目が合った。

あいの小さな身体を、僕の右手が手繰り寄せ、左手は、風に揺れる茶色のパーマを撫でて。

「やっぱり、好きだから。」

僕はあいの瞳を、ずっと、見つめていた。

ゆっくり、ゆっくり、繰り返される瞬き。

「うん…。」

切ない表情を浮かべるように、今にも泣き出しそうな仕草に。

もう、戻ることができないんだな。って、気付いてしまったから。

あいが、ゆっくり目を閉じた後。










…最後のキスをした。
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