ラブレター2

最後の恋

夜の十二時を越え、南瓜の馬車は、ただの車に変わっていた。

「行こうか。」

うん。と返事がきて、見ていた景色を後にしながら、あいの手を引いて歩く。

車の前で、ほどけたあいの指。

もう、触れることはないんだな。と、少しだけ寂しくなった。

バタン、バタン。と二つのドアが閉まる音が、静寂な闇に響きわたる。

車の鍵を回し、再度鳴り始めた音楽と、激しいエンジン音。

ギアを切り替えると、僕らを乗せた車が、動き始めた。

「最近、どうなの?」

踏み込んだアクセルを、一旦離しては踏み込み、通り過ぎる景色を見ながら、あいと話してた。

「うん。大変だよ。」

もう少しで学校も終わるから、それに向け、今からでも忙しいことが、話していて伝わってくる。

「あっ、そうだ。」

赤信号で止まった時に、お尻の方から、慌てて財布を取り出した。

長財布のチャックを開け、それをあいに渡す。

「なに?」

チャックを閉め、両膝に置かれた財布。

青信号になり、また、踏み込んだアクセル。

「いや、大したことないけど。」

暇な時に、作ったんだ。と、説明して、可愛いでしょ?と少しだけ、わき見運転をしながら、隣の顔を覗きこんだ。

「犬…かな?」

車に乗り込んでから、また、一度も笑わないあいがいて、ももちゃんをイメージした。と言っても、そっか。と、一言しか返ってこなかった。

「それが、これから先、あいを守ってくれますように。」

恥ずかしくて、片手でハンドルを握っていた僕の空いていた左手で、そっと、あいの頭を撫でた。

「何それ。」

微笑んだあいがいて、とても嬉しい気持ちになったよ。

そんな思いを過ぎて行く、サヨナラの時間が、次第に近付いてくる。

遅くまで、無理して付き合ってくれた。と思うと、何とも言えない罪悪感が襲ってきた。

暗くなりそうになる自分に気付き、目を閉じて、首を振り、笑ってあいと話をしていた。

「俺はさ、笑ってるあいが好きだから。」

「うん。」

「だから、笑えよ。」

頬を摘まんでみると、うぅ。と、変な声が返ってくる。

段々とスピードを落とし、見慣れた家の前で、車が止まった。

「ありがとね。」

ゆっくりと、シートベルトを外しながら、僕の顔を覗きながら開かれたドア。

目を見たら、泣き出しそうな気がして、下を向いて、おう。と呟く。

「あっ、待って。」

もう、後悔したくなくて、あいの方のドアが閉まる前に、僕も車を降りていた。

それと同時に閉まるドアが一つあって、走るようにあいの前に立つ僕。

「お母さんに、怒られちゃうよ。」

また、遅くなる。と思われたのか、申し訳ないな。とも思ったけれど、

「おいで?」

と、身体を寄せた二人。

優しく抱き締めた僕と、それに、身を預けてくれる君と。

目を閉じて考えていた、沢山のありがとう。

「…よし。」

長い時間をかけてはいけない。と、離れた二人。

「もう、大丈夫?」

年上の余裕からの言葉なのか、おう。と平静を装って言ってみても、ゆっくり階段を上っていく君が、

「ありがと。」

と、微笑んで手を振る仕草に、やっぱり敵わないな。と、僕も叶わない願いと一緒に、微笑んで手を振った。

パタン。と玄関の閉まる音が聞こえ、それを確認してから、一人、車に乗った。

温かさが残ってあるサイドシートに、置き去りにされた笑顔。と言う名の硝子の靴。

それを乗せて、動き出した、小さな車。
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