恋の神様はどこにいる?

「一番右が小町ちゃんのロッカーね。あと、あそこにかけてある巫女の装束が小町ちゃんのだから」

「私のですか?」

「そうだよ。緋袴の内側に、ちゃんと刺繍で“小町”って名前入ってるから」

千里さんに促されて装束があるところまで行くと、それを手に取る。帯の部分の内側を見ると、千里さんの言うとおり白い糸で名前が刺繍されていた。

「普通の会社で言う制服になるわけだけど、慣れるまでは動きにくいかな」

「頑張ります」

「まあそんなに気負わなくても、気軽にね」

そう言われても……。

華咲神社に面接に来たのが四日前。そこであっという間に奉職が決まり、仕事が今日からになってしまったのは昨日決まったばかりなのに、もう装束が用意されていて。丁寧に刺繍で名前まで施してある。

今日ここに来てこの部屋に連れてこられるまでは、ほとんど緊張も無かったんだけど。こんな対応をしてもらったら、是が非でも緊張してきてしまうもので。

これはみなさんの期待に応えなきゃという気持ちが、沸々と湧き上がってきた。

「着付けはわかる?」

「はい!! ……と言っても、この前おばあさんに着付けてもらった、見よう見まねですけど」

結局のところまだいまいちわかっていないのに、元気よく『はい』と言ってしまった自分が恥ずかしくて俯くと、千里さんは笑いながら私の所まで来て巫女の装束を私から取り上げた。



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