恋の神様はどこにいる?
「ホント、あんたって最低。そこは嘘でも『可愛い顔が台無しだね』くらい言うところでしょ!!」
「嘘でもいいんだ。小町ってホント、哀れな子だね。可哀想で見てられない」
そう言って顔をそむけると、また肩を揺らして笑い始めた。
コイツ、一回しばいたろか!!
ふつふつと湧き上がる怒り。昨日もそうだったけれど、どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだろう。
でもここで怒ってみせても、アイツの思う壺。
ここはなんでもないふりをして、とっとと帰ってしまおう。
そう決めると、私はなんとかその怒りが表に出ないようにし、ふっと笑顔を見せる。
「見てられないのなら、私帰ります。もう二度と会うことはないと思いますが、志貴さんお元気で」
私の態度に驚いたのか、野々宮志貴の動きが止まる。
ぷぷぷ。見て見て。野々宮志貴の、あの鳩が豆鉄砲を食ったような顔。
この隙にと鞄をギュッと胸に抱き、こそ泥のように忍び足でその場を離れようとしたんだけど……。
「志貴さーん。ちょっといいですかー」
白い上衣に緋袴姿の女性が小走りにやってきて、またしても私の安易な計画は終わりを迎えてしまった。
袴姿の女性の声で我に返った野々宮志貴は慌てて私の腕を取ると、『容疑者確保!!』と言わんばかり後ろ手に私を捕まえる。
おぉ、なんてタイミングが悪いのよぉ。それにこの体勢、地味に痛いんですけど。