愛情の鎖
「仕事終わったの?」
「ああ、今飯食ったとこ」
「そう、お疲れ様」
ここのマンションの最上階は2部屋しか存在しない。だからここは私とコウさんだけが自由に使える特別な場所。
普段誰とも関わらない私にとって、彼はとっても貴重な人物だと言ってもいい。
「お前は相変わらず飲んだくれてるのか?」
「まあね~」
この屋上は最上階の人以外は入れない作りになっている。
それぞれの部屋に屋上に続く扉があって、そこから出入りをしている。
しかもお隣さんとの仕切りも簡単な胸までの高さの浅い柵と、溝で仕切られているだけ。
そんな場所で私達は表情がかろうじて見える距離をおきながら、いつものようにゆるい会話を交わしていく。
「ねぇ、なんかつまみとか持ってる?」
「あるわけねーだろ」
「ちぇっ、使えなーい。たまにはピーナツの一つぐらい持ってきてよぉ」
理不尽に口を尖らせる私を見てコウさんがギロリと睨む。
年齢不詳のコウさん。
怒った顔も怖いぐらいいけてると思う。
推定20歳後半から30歳ぐらいの彼と出会ってちょうど半年。
最近じゃあこんなやりとりが当たり前の光景になりつつあった。
それは半年前の爽やかな春、いつものように飲んだくれ、大好きな歌を口ずさんでいる時に突然私の前に現れたのが全ての始まりだった。