愛情の鎖
「やばい、もう一本飲んじゃお」
だからこそこの時間が私の限られた癒しの時間。
完璧な彼が唯一油断した隙だらけの空間だと言ってもいい。
よし、と気分よく新しいビールをもう一本開けようとしたら、
「なんだ、また飲んでるのかこの酔っ払い」
そんな時、低い声がして私は斜め右上に顔を上げた。
「あ、コウさんこんばんは。コウさんも一緒に飲む?」
そっか、もうそんな時間か…
そう思いながらも私は予備で持ってきた缶ビールをヒョイっと片手で持ち上げる。
「いらねーよ」
だけど返ってきたのは呆れたような短いセリフ。
そう言って取り出したのはいつも見るお決まりの光景だ。
「今日はこっちの気分なんだよ」
「なんだニコチンじゃない」
それはいつも吸ってるやつだ。
コウさんの口にあてがわれた煙草に目を向けながら、私はふふっと目だけを細める。
「相変わらず好きだねぇ」
「お前もな」
ぶっきら棒な言葉。そしてクールな返し。
1メートルほど離れたもう一つのベンチに気だるそうに座るコウさんを目で追いながらやんわりと笑う。
彼はコウさん。
黒髪にぱっと見近寄りがたいクールな風貌。だけどずば抜けて整ったイケメンフェイス。
彼は隣の部屋に住む謎めいたお隣さんだ。