下町退魔師の日常
「ちょっと! 起きてたの!?」


 藻掻くけど、狭いのよ、ウチの居間は!
 テーブルのご馳走を守りつつ暴れるとか!
 無理だから!


「うん、絵本読んでたら・・・いつの間にかウトウトしてた」


 つーことは・・・最初から爆睡してた訳じゃないんだ?
 も、もしかして。


「・・・き、聞いてた?」


 さっきの独り言。
 もし聞かれてたら、物凄く恥ずかしいんですけど。
 ていうか!
 この体勢も凄く恥ずかしいんですけど。


「あぁ、聞いてないよ」


 ウソだ。
 絶対に聞いてた。
 もー、さっき、久遠くんは正直者だって褒めたばかりなのに。
 ――・・・心の中で。


「お腹空いた」


 憮然として久遠くんを見上げると、さっきと打って変わって真剣な表情をしていた。


「もう・・・我慢できない」
「・・・は?」


 きょとんとして、あたしは聞き返す。
 我慢できないって・・・。
 あの、その言葉とこの行動は・・・ホントに危ないと思うんですけど!
 誰かが見たら、必ず誤解を招くんですけど!
 でも、我慢出来ないって言った久遠くんの表情は心なしか、苦しそうだった。


「まさか・・・また、誰かを襲いたくなった、とか?」


 眉を潜めて、あたしは久遠くんに聞いた。
 まさかさっきの、サスケに引っかかれたキズを舐めて「血が見たくて仕方ない」って言ったの、ホントだったの?


「あぁ、でも、マツコと一緒に居ると何故か落ち着くんだ。こんな事、今までなかった」


 静かに、久遠くんは答える。
 こら、それ以上くっつかないで!


「今まで?」
「マツコは、他の誰とも違う・・・やっと見つけた」


 耳元で、久遠くんは言った。
 今にも心臓が飛び出しそうなのを必死に堪えて、あたしは目一杯平静を装う。


「意味が・・・分からない」


 こんなに間近で、久遠くんの顔を見ている事。
 そして、血が見たいって言っておきながら、あたしを守るって・・・?
 どういう事なの?
 どうしてそんなに、血に飢えてるの?


「だから」


 久遠くんは、それきり黙ってしまう。
 さっきから居間の入口で毛づくろいをしていたサスケが、いきなり唸り声をあげたから。
 今度は夜中か。


「久遠くん・・・分かるよね?」


 だから離して。
 あたしは、目線でそう訴えた。
 久遠くんは黙って、あたしを解放してくれる。
 ゆっくりと起き上がり、じいちゃんの仏壇の下の戸棚から短刀を取り出した。
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