下町退魔師の日常
 夜中の戦いって、嫌いなのよ。
 視界は悪いし、疲れてるし。
 でも幸いなのは、町のみんなが寝静まってるって事。
 うっかり外を歩いていたなんて人はほぼいないはず。


「帰ってきたらさ」


 そんなあたしに視線を送る事なく、久遠くんは俯き加減に言った。
 短刀を手にして立ち上がりながら、あたしは久遠くんを見る。


「帰ってきたら、俺の話・・・聞いてくれるか?」


 帰ってきたら。
 うん・・・帰ってきたら、ね。
 あたしは、笑顔を浮かべた。


「もちろん。何でも言ってって言ったでしょ」
「あぁ、そうだな」


 やっぱり、聞いてたんだ。
 あたしは、軽くため息をついて。


「じゃ、行って来る」


 そう言うと、居間を出た。




☆  ☆  ☆




 真夜中の空き地にぽつんと建立されている祠は、どこか薄気味悪かった。
 ま、これからもっと薄気味悪いヤツが出てくるんだけど。


「この前みたいに先走ったりしないでね、サスケ?」
「みゃん!」


 ふふ。
 ホントに分かってるの、サスケ?
 あたしは、祠を見据えると、短刀を包んでいる布を解いた。
 あたしに霊感とか、オバケとか妖怪とか。
 そんなものを感じる力は、全く無い。
 だけど長年、退魔師なんてのをやってると嫌でも分かっちゃうんだよね。
 祠の扉が開く前の、この、何とも言えない禍々しい気。
 ビリビリと、全身にトリハダが立ちそうな。
 でも今回は特に――。


「サスケ」


 緊張を含んだ声で、あたしはサスケに話し掛けた。


「今回は、手、出しちゃダメだよ」


 分かっているのかいないのか、サスケは背中の毛を逆立てて、祠に向かって唸り声を上げている。
 うん、半分は分かってるみたいね。
 今から出て来る相手が、前回よりも格上だっていうこと。
 ガタガタと、祠の扉が揺れた。


「――・・・来る」


 あたしは、短刀を握り締めた。
 暗闇に、輝きを取り戻した短刀の刀身が鈍く光る。
 ガタン!!
 扉が勢い良く全開になる。
 同時に、あたしの身体ははじき飛ばされていた。
 それでも瞼を開けたまま、あたしは相手の動向を見据える。
 なんちゅう速さ!
 この空き地から逃げられたらおしまいだ。
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