【短編】 ベテルギウスの幻影〜最初で最後のkiss

「ここの支配人になった時から、僕には君が見えていたよ。
お気に入りの白いワンピースを着ているね?」


城島君は、変わっていない。


そうやって、優しい眼差しで私の顔をじっと見つめる。


「いつか僕が褒めた服だ。君は色が白いからとてもよく似合うって」



そうよ。
覚えててくれたの。
だから私はずっとこれを着ているの。



「あの頃のままだ。君は今も可憐で美しい」


城島君の言い方はいつもストレートだ。
恥ずかしくなって、私は俯いた。


「…オデオン座、無くなったらここはどうなるの?」


「更地にしてとりあえず駐車場になるよ。土地の買い手が付いたら、マンションが建てられる」


「残念だな。オデオン座、皆に愛されていたのに」


「仕方ないさ。時の流れだよ。形あるものが無くなるのは、自然なことだ」



膝の上に置かれた左手に、キラリと光るプラチナのリング。


「私、これからどうすればいいかな?」


伏し目がちに訊いた。


「私の両親は、事故を思い出したくなくて、遠くに引越してしまったし」


なんの思い入れもない家や、屋根のない場所に住むのはイヤだわ。





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