【短編】 ベテルギウスの幻影〜最初で最後のkiss


華やかな銀幕の世界とは程遠い古びた映画館だけど、ひとたび映画が始まれば、オデオン座は、観客の感情を揺さぶる旅へと導く。


時には、タイムマシーンのように。

或いは、宇宙ロケットのように。





「…今までありがとう」


形の良い唇の間からも漏れた城島君の言葉に私は、驚いた。


城島君の瞳は、確かに私を捉えていた。



「マナミが守ってくれたから、オデオン座は何事もなくやってこれた。
感謝してるよ。本当にありがとう」


城島君には、見えているのだろうか?


まさか。そんなワケない。


でも、私は大きな声で応えた。


「そうよ…台風が来れば、看板が飛ばないように押さえていたし、客が火の点いたタバコをポイ捨てした時は、急いで揉み消したりしたよ。
それぐらいしか、出来なかったけどね」


「それで充分さ。
通行人を怪我させることもなかったし、火事にもならなかった」


彼は真っ直ぐに、私の方を見て言った。

信じられない。


これまで、私が見える人に出逢ったことがなかったから。



彼はゆっくりと階段を登り、私の横に座った。




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