妄想世界に屁理屈を。


『でもな、俺は落ち込んでるお前を見てる方がずっと辛ぇ』



…ぴくん、と。

彼女の肩が上がった。


『もうその姿何年見てると思ってんだ、いい加減にしろ。
つか、帰ってこいや』


不器用な言い回し。

だけど、ものすごい愛がひしひしと感じられる。


…何年も経ってるのにあんなに落ち込んでるんだ、アカネ。


本気だったんだ。

そういや、鸞さんにハクさんの話をされたときの喧騒はすごかった。


今まで能面だったのに、あそこまで変わってしまうとは。


帰ってこいって…あ、家出してたんだっけ。

無理矢理連れてきたとか、そんな感じかな。



『…生きてんだから、アイツは』



ハクさんはまだ生きてる。

だって、彼らはちゃんと生きてるんだから。


黒庵さんの手が、ためらいがちに宙をさまよい――アカネの肩を叩いた。


『……』


それを合図に、ようやく顔をあげたアカネ。

目の回りが真っ赤に腫れていて、心なしかやつれてる。

それだけで心労が伺えた。


『…だってさ、いきなりだよ?』


『ああ』


『このまえ、いきなり、鸞が、捜索やめるって、』


『…ああ』


『私、やだって、言ったのにっ…』


『…聞いてた』


『ひどい…ひ、ひどいよぉ…』



――これ、鸞さんが捜索を打ち切ったって言ったあとの記憶か?


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