妄想世界に屁理屈を。
『だからって、家出はだーめ』
たしなめるように、肩をだきながら。
『…お父さん、心配してんぞ。もちろん、鸞も苑雛も』
『…ハクを捨てたやつなんか…』
『バカ。いつまでいってんだ。あいつのことだし、いつかひょっこり帰ってくるかもしんねぇぞ?』
『…帰って?』
ぼんやりと、悲しそうな瞳を揺らす。
それに黒庵さんはちっ、と吐き捨てるように舌打ちを打った。
…好きな女が男に反応してるんだもんな、当然か。
『わかんねぇだろ。ほら、家に帰ろうぜ?』
すっくと立ち上がって、パンパンとしりについた砂浜の白砂を払い落とす。
『…ほら』
手を伸ばして、どこかの王子さまみたいにアカネに微笑む。
『…え、でも、私…もう一ヶ月くらいあってないんだけど』
『バカだろ。てめぇそんなこと気にしてんの?』
くっ、とまるで嘲笑うかのよう。
王子さま発言撤回。
…だけど、彼は暖かい。
心のそこがかなりみえる、ぶきっちょさんだ。
ぎゅっと、アカネは黒庵の手を借りて立ち上がった。