妄想世界に屁理屈を。
「…なんで、その妖狐は逃げてたんですか?」
「気になりますか?」
悲しそうな笑い方のまま、本棚から本を一冊抜き取った。
「えっと…これ、だったかなぁ」
否、紙を束ねただけのもの。
この本棚のほとんどがお父さんの執筆である。
それは、いろんな異界のことをまとめたものだったり、ただの日記だったり。
趣旨はバラバラだけど、全部お父さん手ずからまとめたものだ。
引きこもったとは言っても、仕事を放り投げたわけではない。
きちんと努力をして責任を持って一一最高神の座にいるのだ。
「調べたんです、一応。私の可愛い息子に近づいたんですからね」
パラパラと筆で丁寧に書かれた字が連なる紙をめくる。
「あ、やっぱりこれだった。
あげます。自由に読んでください」
お父さんから本を渡される。
自分で調べろってことか。
後で読もう。貴重な資料だ。
「…それからしばらくして、シロはいきなり何者かに襲われました。
音もなく現れたそいつはシロを利用して最高神の座を手に入れようとしたのですが、シロは拒否。
…殺されてしまいました」
悔しそうに唇を噛むお父さんに声をあげたものがいた。
「お父さんならば、救えたんじゃないのかの?」
「鸞…」
紺の髪を怒りに震わせて、自分の父を睨めつける。