妄想世界に屁理屈を。



「ん?あ、あれ…百瀬だ」


学生の群れの中、オアシス発見。

黒髪をふわふわ風に舞わせながら、なんとも愛らしく歩いている。


“お、恋する男子高校生”

アカネが楽しそうにニヤつき始めた、むかつく。

とりあえず声をかけようと一歩足を踏み出した。


「百瀬、おはよ!」


どきどきする。

この美少女に話しかけてんだぜ俺。

優しい百瀬だから返してくれるだろうけど。

それでも、この喧騒に混じって聞こえなかったンじゃないかとか変な心配をしてしまう。


ほら、案の定こちらを振り向いて一一



“お?”
“あれ?”


くるりと、顔をそらしてしまった。



逃げるように人の群れに紛れていく。

すぐに、百瀬の小さな背中は見えなくなってしまった。



「なっ…え?」


呆然。

あの百瀬が、逃げ、挨拶…


「ちょっとまって、今まさか俺避けられた?」

ようやく思考が追いついた。

“うわぁ、あれ避けられてんな。お前何かした?”

「え…し、してないと思うんだけど…」

“もともとあんたなんかとは身の丈の合わぬ恋、どこかの男に先を越されて百瀬さんを取られたんじゃないの?”

「うわ、それグサってきたんですけどスズさん…」


俺がチキンなのが悪いのか?

うう…そうだよな、百瀬モテるもんな。

今時珍しい大和撫子タイプで純粋そうなところがたまらないもんな。


“…柚邑、そんなにショックなの?”


スズの声音が変わる。

ちょっと疑問を覚えながら、頭を抱えながら答えた。


「ショックだよ、もちろん。
好きな人に避けられるって、すっごい怖いもん」


“……そうなのですか?アカネさま”

不思議そうにいうから、察しがついた。


スズはこの見た目に平行して、恋とかしたことないんだ。


宮下さんに追いかけ回されてんのは向こうが片思いなだけだし、ミサキくんはお兄ちゃんかお父さん代わりって感じだし…


“あー、うん。そーゆーもんだよ”

“……”


何かを思案するように黙り込んだ。


「スズ?どうしたの?」

なんかスズらしくない。


“じゃ、じゃあアカネさま…
逆に、好きな人に構ってもらえる、関わってもらえると嬉しいのって、好きってことなのですか?”


“お?なんだー?好きな人でもいんのかー?
宮下が泣くぞー”

「え?うそ、スズ好きな人いるの?」

“うううるさい柚邑!あんたは黙って失恋してなさいよ!”

「うう…グサッと…」

“ふんっだ!”


漫才してる場合じゃないんだけどなぁ。



< 451 / 631 >

この作品をシェア

pagetop