わきみち喫茶

なぜこの人は突然こんな話をし始めるのか。
そんな疑問が頭に浮かぶが、なぜか不思議と女性の話に惹きつけられた。


「種類も分量も全てその日の気分で作り上げるので同じものは二度作れないんです。
だから、毎朝心を込めてブレンドするんです。
このメニューを選んでくださったお客様の心が平和で満たされて、少しでも幸せな気分になれますようにって」


楽しげに語るその笑顔になぜか胸が高鳴った。


「不思議とこのメニューを選ぶお客様は、どこかお疲れになっているように見えるんです」


気付かわしげな声音が胸にしみていく。


「体の疲れは癒すことができます、でも心の疲れはそう簡単には癒せません。
わたしにできることは、たった一杯のお茶を提供することだけです。
それでも、このお茶を選んでくださったお客様が少しでも楽な気持ちでお帰りになれたらいいなって」


こんなにも他人を想って生きている人がいるなんて、なんというか…この広い世界でこんな素敵な人に出会えた事実が、それだけで心を暖かくさせた。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop