ロスト・クロニクル~後編~
シェラを自分のモノにすることができれば、クローディアで神聖視されている場所に踏み込もうが関係ない。勿論、彼の言い分が許されるわけがなく、下手すれば大問題に発展してしまう。それだというのにミシェルは同じ内容を繰り返し、正論を言うルークを一括する。
「ミ、ミシェル様」
「この国は、僕の物だ。僕の物なんだから、自由にしたっていいだろう? 文句を言われる筋合いはない」
これこそミシェルの本音だろう、側で彼等のやり取りを聞いていたシードの眉が微かに動いたことに、リデルは気付く。しかし隊長という立場上、冷静に周囲の状況を把握しないといけない。それでも今の発言は神経を逆撫でするには十分なもので、漂う雰囲気が変化する。
その間も続けられる、ミシェルとルークの押し問答。これで本当に二十歳を超えているのだから、精神的に幼いのだろう。このような人物を相手にしているルークに、シードとリデルは同情してしまう。だからといって、彼等の押し問答に口出しすることは一切しない。
「行く」
「何処へ……でしょうか」
「認められに」
「ですから、それだけは……」
「黙れ」
ミシェルの怒りが頂点に達したのか、ルークをティーカップで殴り付ける。殴られた個所は右のこめかみで、殴った反動でティーカップの破片と共に鮮血が飛ぶ。激痛にルークは蹲り、呻き声を発する。だが、ミシェルは傷付いたルークに声を掛けることなく、立ち去ってしまう。
リデルはルークに近付くと、清潔な布を取り出し傷口にあてがう。予想以上の出血の量にリデルは早い手当を促すが、ルークは頭を振り彼女の申し出を丁寧に断る。これくらいなら自分で何とかできると言いたいのだろうが、あてがっている布は真っ赤に染まっている。
一方シードはミシェルの前に立ちはだかると、ルークに代わり説得しだす。敬語を用いた丁寧な言い方だが、全身から漂わせているオーラが彼を許さないと言っている。それに全く気付いていないミシェルは鼻を鳴らすと、他国の者が自分の邪魔をしていいのかと脅しにかかる。
互いの地位からして、シードがミシェルに何かを言っていいものではない。それでもミシェルが行おうとしていることを考えれば、地位をどうこう言っていられる問題ではない。そう、ミシェルが土足で踏み込もうとしているのは、女神エメリスが祀られている大神殿の聖域。