ロスト・クロニクル~後編~

「エイル様」

「ああ、マナ」

「どうかなされたのですか?」

「いや、ちょっと……」

 と言い掛けた途中で、エイルは言葉を止める。マナはメルダースに興味があると言っていたので、彼女に意見を聞くのもいいだろう。ただ「シェラ宛の手紙」という部分が、隠さないといけない。エイルはマナを自室に招き入れると、メルダースのどの部分に興味を持ったのか尋ねる。

「メルダースですか」

「興味があっただろう」

「はい。ですが、どうして……」

「兄さんの知り合いが……そう、メルダースに入学したいらしく、内情とか色々と知りたいらしい」

「そうでしたか」

 咄嗟についた嘘だったが、マナは特に疑うことはしない。自分がついた嘘にエイルは「ラルフに似てきたのかな」と、心の中で苦笑する。しかし嘘によって特に大事になることはなく、マナは自分が気になっている部分――授業の風景について、あれこれと質問しだす。

「授業か……」

「難しいですか?」

「難しいってものじゃないよ」

「テストが、苦労したと――」

「苦労したね。テストが行われる数日前から、徹夜の毎日だったし……そういう部分も必要か」

 メルダースの場合、華やかな学園生活とは程遠い部分がある。いい面を書くだけではなく、悪い部分も書かないと話は盛り上がらない。また、シェラも多くのことを書けば喜ぶだろうと、エイルは考える。それにマナの話と演劇のことを書けば、相当な枚数になるだろう。

「有難う。参考になった」

「お役に立てて、何よりです」

「あとは、学園長のことも書こうかな。不真面目な生徒には厳しい人だから、目をつけられないように……と」

 シェラはメルダースに入学するわけではないが、あの地上最強の魔女の話はいいネタになるだろう。このような言い方をすると、クリスティに何を言われるかわかったものではないが、状況が状況なので仕方ない。しかしクリスティの恐怖が身体に染みついているので、小声で謝ってしまう。
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