ロスト・クロニクル~後編~

 アルフレッドの宣言にリデルは無言で頷くと、念を押す形で「その言葉を忘れるな」と言葉を放つ。

 流石のアルフレッドもリデルの迫力に負けたのか、更に深く項垂れると「勿論です」と弱弱しい言葉を返した。

 情けない姿をしているアルフレッドの横で、自身の身に訪れた試練にエイルは気持ちを落ち着かせる形で深呼吸を繰り返す。そして自身に気合を入れると、リデルの案内でシードのもとへ向かった。




「話は聞いているな」

「はい」

 シードが使用している私室に通されたエイルは、彼が纏う独特の雰囲気に手合わせ前に負けてしまう。

 背筋を伸ばすエイルは想像以上の緊張感に包まれながら、シードの話を聞き、時折返事を返す。

「別に、お前を特別に思っているわけではない」

「では……」

「新人隊員は全員行なう」

「僕が最初ですか」

「そういうことだ。一番に選んだ理由は、お前が一番わかっているはずだ。手加減はしない」

 氷のように冷たい視線と低音の声音に、エイルの身体が過敏に反応を示す。父親のフレイが放つ迫力も恐ろしいものがあるが、シードが放つ圧力は別の意味で恐怖感を感じてしまう。

「親衛隊の隊員は、強くなければいけない」

 そう言いつつシードは、腰に下げてある剣の柄を握り締める。そして何を思ったのか素早い動きで抜刀し、エイルの首筋ギリギリの位置で刃を止めた。未熟なエイルが、その一連の動きを目で追うことはできない。ただ目を見開き、目の前で舞い落ちる自身の髪を見詰めた。

「己の実力、わかったか」

「……はい」

 このような状況でありながら、自分の実力がわからないというほどエイルは馬鹿ではない。エイルの返事にシードは満足そうに頷くと剣を鞘に収めると、更に言葉を続ける。すると彼の言葉にエイルは、別の意味で驚いてしまう。シードが言った内容というのは、自身がルークと手合わせをするというもの。そしてこれにミシェルが関わっているということも説明する。
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