不安を抱えながらも、仁志は2階に向かった。
1階の廊下ではまだ管理人と山口がバトルを繰り広げている。
一番手前の部屋をノックするが・・・応答なし。
更にもう一度ノックするがまたまた応答なし。
留守かな?まぁ、平日の昼間なのだから仕方がないか。
そう納得した仁志に向かって、下から怒鳴り声が響く。
「おぉ~い新入り!!そこは誰も住んでねぇよっ!!こんなボロアパートで、こんなババァしか女がいねぇんだ。そりゃ誰も入らないわなぁ~」
その言葉をきっかけに再び二人のバトルが開始。
「誰がババァだ!!」
「お前だよっ!!」
仁志は無視をし、隣の部屋、つまり仁志の上の部屋に向かった。
ノックをしようとした瞬間・・・
!!!!!??????
仁志は固まった。
扉を開けて、ニッコリと笑う男が仁志を出迎えていたからだ。
「・・・ど、どうも・・・」
どうにか平常を保って仁志は話し掛けるが
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ニコニコしたまま男は何も話さない。
「・・・あっ、あの・・・」
沈黙が続く・・・。
どうしようか悩んでいると、突然後ろから背中を叩かれた。
振り向くと老人が立っている。
「その人は高岡君だ。私は佐藤。ここにはこれだけの人間しかいないんだ。
 よろしくな。」
やっとまともな人がいた・・・仁志は少々安心して挨拶をはじめた。
相変わらず1階では管理人と山口がもめており、高岡は一言も発さない。
すると佐藤は
「あの二人はいつもケンカをしている。時期になれるから。高岡君はこの通り一言も話さない。私もここに来て数年経つが彼の声を聞いた事はないんだよ」

一通り挨拶を終えた仁志は、ケンカをしている二人の間を通り過ぎ、自分の部屋へと逃げ込んだ。
明日から、バイトを探しに行こう。
相変わらず部屋の中にいてもアパートの騒音で落ち着けない。

でも、あそこよりはマシだ。
ここなら少なくとも誰にも関わらずに過ごしていられる。

どっと疲れがでた仁志はいつの間にか眠りについた。
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