こちら元町診療所
真っ暗な狭い玄関に二人きり


とりあえずここで待ってて貰って、私が戻って良さんに車持ってきてもらおう


この眠そうな酔っ払いを一人でやっぱり帰せない


『靖子ってほんとに危機感ゼロ』



手探りで電気のスイッチを探す私の手が後ろから伸びてきた手に掴まると、背後からあっさりと腕の中に閉じ込められる


「ちょっと何して」


『これが他の男なら今頃やられてるよ』


そう言ってから首元に感じた熱いものに私は体が跳ねる


「良さん呼んできますから……待ってて……ん」


『ほら、そんな声出されたら男なんて一瞬で狼になるってわかってるの?』


熱いそれが耳元に触れてもう一度大きく跳ねる体


それと同時に瞳に溢れる涙が頬を伝って流れる


『靖子は自分のこと分かってないから怒ってるの。そんな服着て一人で無事に帰れると思った?』


「……」


ついに泣き始めた私の体の向きをあっさりと変えて、腕の中に閉じ込めれば優しく背中を叩く手に涙が溢れる


「朝から……ヒック…講義で疲れてるって思ったから良さん……呼ぼうって…」


『その純粋さが好き。でもね俺だって靖子が心配。心配すぎてここから出したくないくらい』


「それは嫌…」


そう言うと小さく笑った声


「誰でもこんな風に部屋にいれませんから」


『誰でも?じゃあどんな人なら入れるの?』


まだ続く背中をあやす手


その手が私の髪を撫でて首筋をかすめていく


「不特定多数……」


『クス…のなんだそれ…ダメじゃん。』


だってそんなことを突然聞かれても分かんないし、さっきから私の鼓動が煩くて考えれない


『靖子』


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