こちら元町診療所
いつも困ったときに聞こえる名前を呼ぶ声



そのたった一言なのに、どうして私はこんなにも胸が苦しくなるんだろう


全身の神経が呼ばれたことで一ヶ所に集まるみたいな感覚だ……


『顔見せて』


「ッツ……無理…です」


その一言なのに、私の体は酔わされたように麻痺するから…


『じゃあ向かせる』



その言葉と同時に上を向かされた私は甘い香りに包まれて、唇を何度も音をたてて啄まれる


どうしてキスされてるのに抵抗できないか分からない


暗闇でどんどん深くなる行為に、頭を引き寄せられて不謹慎にも回してしまった両手


『ん、いい子……』


そう言ってもう一度塞がれた唇はやっぱり甘くて、私はそれに酔う


「ん………はぁ……」


自分がこんな声を出してる事が恥ずかしいのに、優しいその行為に涙を流せば、冷たい指が拭っていく



26歳の誕生日


今まで知らなかった気持ちが溢れ出す




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