こちら元町診療所
そこまで言ってよく考えた


帰りが遅くなってもいいようにって着替えを持ってこさせたのはコイツ


それでもって帰り送ってくって約束も良さんとしてないってことは



「まさか……」


『どうしたの、靖子?』


掴んでいた大きめの鞄が手からすり抜けるのを見たアイツの顔が笑った


『俺飲んじゃったし運転出来ないよ?』


開いた口が塞がらないとはこういうことだ


すっかり夢見心地の私は忘れていた



「……歩いて帰ります」


『無理、駅まで遠いし』


「じゃあタクシー」


『お金すごいかかるよ?』


「……帰りま……!!」


最後に振り絞った言葉は、目の前の腕に引き寄せられてあの香りに飲み込まれる


騙された……


始めからこうするつもりでいたんだ


『靖子』





< 56 / 241 >

この作品をシェア

pagetop