ママと呼ばれたい ~素敵上司の悲しすぎる過去~
「え? いやあ、それはちょっとね……」


課長は今回も言うのを渋ったけど、ここで引いてなんかいられない。


「教えて下さい。お願いします。課長から聞いたなんて言いませんから」

「そんなに聞きたいかい?」

「はい、聞きたいです!」

「そうかい? じゃあ言うけど、あくまで噂だからね。それと、あまり人には言わない事」

「はい、大丈夫です」


課長は近くに人がいない事を確認すると、私と同じように体を前に乗り出し、課長と私の顔はかなり近付いてしまった。

普通なら避けたいところだけど、今はそんな事を気にする場合じゃない。むしろ課長の話を聞き逃さないようにする方が大事だ。


「彼についてはいくつかの噂を聞いたよ。例えば、ある重役と意見が合わなくて、喧嘩して日電を辞めたとかね」


なるほど……。今は大人しい新藤さんだけど、あの精悍な顔つきだもの、案外短気なところがあるかもしれないわね。


「それはあるかもしれないと思ったけどね、君の話を聞いたら、それじゃなくてあっちかなと思ったよ」

「あっち、ですか?」


課長ったら、それとかあっちとか、もったいつけないでハッキリ言ってほしいなあ。

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