鬼部長の優しい手



それ?それって?

香澄先輩の言葉の意図がわからなかった
私は首を傾けた。


「仕事のときは“塚本部長”って呼び方の
方がいいけど、こうやって休憩中とか、
塚本と二人っきりの時くらいは、
“颯真さん”とかって呼んであげたら?」


「え!?」



そう言ってタバコを吸って、
ふぅー、と、煙を吐いた香澄先輩。



いやいや、いくらなんでも、
“颯真さん”って…
いや、でも先輩の言う通り、確かに
もうそろそろ名前で呼んでもいい時期?


「そんなに思い詰めることないわよ。
呼び方なんて。“塚本部長”を、
“颯真さん”に変えるだけなんだから。
なんなら颯真って呼び捨てでもいいんじゃない?」


うーん、と考え込む私に、
香澄先輩は呆れたように微笑んだ。



「それはそうなんですけど…。
なんか、ちょっと抵抗というか、
恥ずかしさが強いというか…」


だって、今までずっと“上司と部下”って
関係で、二人っきりって言ったって、
いきなり名前で呼ぶのは…



「あー、もう!
あんた達は、どうしてこうも
いじらしいのよ。なんかイライラしてきた。」



またも考え込む私に、
香澄先輩はしびれを切らし、そう言った。


「ほら!今、塚本もいないし、
言ってみな?“颯真さん”って。」


「え!?いや、でも…」

香澄先輩の提案にどもる私。
そんな私をよそに、香澄先輩は“早く!”
と、急かす。




「…颯真…さん」



「…なんだ?



凉穂」



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