鬼部長の優しい手



喫煙室のドアが開く音と同時に聞こえた
低音ボイス。

その声を聞いた瞬間、私の体がビクッと震えた。



だって、今、

「…部長?」


「なんだ、もう颯真さんって呼んでくれないのか?」



ぎこちない動作で振り向くと、
お得意の意地悪な笑みを浮かべた部長が立っていた。


…もしかしなくとも、聞かれてた?
いやいや、それより今、
私の大好きな声で“凉穂”って、
言った気が…


「部長、今私のこと…」


「悪い。お前が俺の名前を呼んでくれたのが嬉しくて、つい。

名前で呼ばれるの嫌だったか?」



そう言って申し訳なさそうに笑った部長。


「嫌なわけじゃ…!

むしろ…」


「むしろ?」



続きの言葉を想像してか、
部長は嬉しそうに笑いながら、
“むしろ、なんだ?”と急かしてきた。




…わかってるくせに。
本当、意地悪。



私は唇を噛み締めたあと、
目の前で笑う部長を見つめる。




「むしろ、嬉しかったです…」



意を決して、そう言った。
すると部長は、さっきよりも、もっと
嬉しそうに微笑んだ。




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