鬼部長の優しい手


「黛実ー!香澄先輩ー!」

黛実と香澄先輩の名前を叫び、 大泣きする私を呆れた様子で見ている二人。

「…確かに泣いてもいいとは言ったけど…
そんなに大号泣していいとは言ってないわよ…」

「まぁ、今日くらい
大目にみてやってください。」

腕を組んでため息をつく香澄先輩に、
苦笑いを浮かべてそう言う黛実。
そんな二人の姿を見て、心を落ち着かせようと深呼吸してみたけど、
全く効果はなく、何故か涙が止まらない。


「笠野、ちょっと七瀬頼むわ。
私まだやることあるから」

「あ、はい。わかりました。」


泣き続ける私をよそに、
黛実と香澄先輩はそんな話を続ける。

香澄先輩は“じゃあまたあとで。
七瀬、泣くとマスカラ落ちるからほどほどにね。”
そう言って部屋を出ていった。

「ほらほら、早く泣き止んで。」

「う、うん。」

黛実は私の頬につたった涙を指で
拭い、呆れた笑みを浮かべてそう言った。

ダメだ。これ以上泣くと本当にメイクが落ちちゃう。

私も黛実がしてくれたように慌てて頬を指で拭った。

「よし、泣き止んだわね。
じゃあ、はい。これで仕上げ」

「…え?」


黛実はそう言ってテーブルの上に置いてあった自分のクラッチバックの中から、
薄いピンクのグロスを取り出した。

そう言えば、メイクをしてもらったとき、なぜか唇だけなにも塗らないまま
終わったのよね。
どうしてかわからなくて、
でも黛実たちと話してるうちに忘れちゃってて…



「そのグロスを塗るの?」

不思議に思い黛実に聞いてみる。

「…ねぇ、涼穂サムシングフォーって知ってる?」


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