鬼部長の優しい手



ね、って…
ね、って言われても…っ!






気まずそうに眉間にシワを寄せる
部長の真意を見抜こうと
チラリと部長に視線を向けたとき
切れ長の部長の目が、私を捉えた。





…っ、
目が合うと余計に気まずい…





…部長は、飲みに誘われたこと
不快に感じたりしてないかな…?
部長が誘いを受けると、
必然的に私と一緒に“また”飲むことに
なるわけで…



いや…っ、でも私だけじゃないし!
黛実も山本くんもいるし!
うん、大丈夫…だよね…
って言うか、まだ部長は誘いを受けた
訳じゃないのに、私
一人でなに盛り上がってるの!?







「…涼穂?どうかした?」


「あっ、いや、うん
なんでもない!なんでもないよ!」




うんうんと、考え込んでいた
私の様子に気づいてか、後ろのデスクに
座り、山本くんと部長のやりとりを
見ていた黛実が心配そうに声をかけてくれた。






「部長~、たまにはいいじゃないっすか。


行きましょ、ね?」





「ほんと、懲りないわね。あいつ」
と、冷めた黛実と
未だ冷や汗を流し、なぜか緊張
しながらも山本くんと部長のやりとりを見つめる私。












…部長が来てくれるなら、
少し、ほんのすこーっしだけ…嬉しい。

でも、部長がもし断ったとしても
私はたぶん安堵の息をつく。

“あんなこと”があったし…








…部長は、私とまた一緒になるの
嫌じゃないのかな?




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