気まぐれな君も好きだから
もっともすべてが手に入るなんてことはあり得ないから、いつかは辛い選択をしなければならないという覚悟はある。

ずっとこの状態でいられるはずがないし、仕事に対しても、恋愛に対しても、自分の考え方が少しずつ変わって来ているのもわかっている。

例えば、あれこれ理想を求めるんじゃなく、今そばにある小さな幸せを現実と受け止めて大切に育てることの方が、私には合っているのかもしれない。

そんな風に思わせたのは、間違いなく、今まさに私を抱きしめている子犬の影響なんだけど..........



明日、衣料品本部から正式発表があれば、仕事上での身の置き場所が少しは見えてくるかもしれない。

そうすれば結婚とか退職とか、自ずと今後のビジョンも出来て来るだろう。

今日、俊と会ったら、それを理由にしてお茶を濁そう。

逃げるつもりはないけれど、今はまだハッキリとした答えを出せる段階じゃない。



「落ち着いた?」

「うん。ありがとう。」

「歩未はいつも言いたいことを我慢しちゃうから、心配なんだ。」

「..........。」

「辛かったら辛いって言いなよ。俺はいつでもそばにいるから。」

「.....うん。」



おでこにキスして微笑む遥希を、年下とは思えないほど頼もしく感じた。

と同時に、遥希の言葉にどこか私のヒネくれた心の内を見透かされているような感覚を覚えた。



もしかして遥希なら、私の全部を受け止められる?

本気で私をわかろうとしてくれる?

私をあやすみたいに抱きしめる腕があんまり優しいから、そんな淡い期待を持ってみたくなった。
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