髪から始まる恋模様【SS集】

***

「…ねぇ、カリンさん。
俺がまだアシスタントだった頃
シャンプーしてる時に
俺に言ってくれた言葉覚えてる?」

タイチ君はカットをしながら

鏡に映る私に問いかける。

「……。」

鮮明なほどに

彼の言ってる事に対する

話の内容は良く覚えてる。

でも、さっきから私は

彼の質問には何も答えられずにいた。

「…忘れちゃった?覚えてない?」

彼は何も答えない私の髪に

ハサミを入れながら

「…言ってくれたでしょ?
『タイチ君はシャンプーも
カラーリングの腕前も上手だから
きっと早くスタイリストに
昇格出来ると思う。
デビューした暁には、絶対にカットは
タイチ君を指名するから頑張ってね。』
って…。
本当に覚えてない?忘れちゃった?」

と言って

鏡に映る私をチラリと見た。

「……。」

一瞬の沈黙の後、私はコクンと頷き

「…覚えてる。」

と、ポツリと呟いた。








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