髪から始まる恋模様【SS集】
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「…ねぇ、カリンさん。
俺がまだアシスタントだった頃
シャンプーしてる時に
俺に言ってくれた言葉覚えてる?」
タイチ君はカットをしながら
鏡に映る私に問いかける。
「……。」
鮮明なほどに
彼の言ってる事に対する
話の内容は良く覚えてる。
でも、さっきから私は
彼の質問には何も答えられずにいた。
「…忘れちゃった?覚えてない?」
彼は何も答えない私の髪に
ハサミを入れながら
「…言ってくれたでしょ?
『タイチ君はシャンプーも
カラーリングの腕前も上手だから
きっと早くスタイリストに
昇格出来ると思う。
デビューした暁には、絶対にカットは
タイチ君を指名するから頑張ってね。』
って…。
本当に覚えてない?忘れちゃった?」
と言って
鏡に映る私をチラリと見た。
「……。」
一瞬の沈黙の後、私はコクンと頷き
「…覚えてる。」
と、ポツリと呟いた。