恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
そう言いながら、婚姻届を折りたたんで再び茶封筒の中へ入れた。そして、
「時間取らせて、悪かったね」
と、ニッコリ笑ったかと思うと、印刷室を走り出て、一陣の風のように姿を消した。
真琴はそれから、自分の机にとって返し、我を忘れて授業の準備をした。二年生の理系クラスの世界史は、文系クラスより授業時間が少ないにも関わらず、進度は同じなので、1回の授業の内容がものすごく濃いのだ。
ようやく授業の見通しがたった時、職員朝礼の前の学年の連絡が始まった。どこかに行っていた古庄は、滑り込むように席に戻ってきた。そして、何もなかったかのように、手帳を開いて胸のポケットからペンを取り、連絡事項を書き留めている。
その胸のポケットには、あの茶封筒が差し込まれたままだ。
あの中身を誰かに見られでもしたら、大騒ぎになる…。
第一、原則的に、公立高校の教員同士の夫婦は同じ学校には勤務しない。古庄は、どういうふうに考えてるのだろうか…。
――……ま、役所に提出しなければ、結婚は成立しないわけだし……。
真琴はそう思って、少し気を楽にした。約束の1年が経って、お互いの意思の確認をしたようなものだと思うことにして、仕事に専念するために心のざわめきを収めた。