恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜
古庄もとっさに真琴の手を離して、神妙な顔をして教頭が通り過ぎるのをやり過ごす。教頭にしてみれば、これも『イチャついてる』ことになるかもしれない。
「……だったら、何でそんな顔をしてるんだ……?」
教頭の姿が見えなくなると、気を取り直した古庄から、真琴はそう質問された。指摘されて、自分がどんな顔をしているのか意識する。
先ほど古庄が見せてくれたみたいに、幸せいっぱいの顔はしていないはずだ。
喜びで輝き、晴れやかだった古庄の顔も、真琴の態度を受けて曇ってきている。それでも、そんなふうに憂いていても、またそれが様になる完璧な容貌……。
そんな顔に見つめられて真琴は、申し訳なさと古庄を想う切なさで、胸がいっぱいになった。
古庄は真琴にとって、何にも増して…自分よりも大切だと思える愛しい人だ。そして、自分には不相応と思えるほど、素晴らしい男性だ。その古庄と結婚できるなんて、夢のような出来事だ。その愛しい人と、一生一緒にいられる契約を結んだのだから、心の底から嬉しく感じて当然なのに……。
真琴の心は、朝からの動揺が尾を引いて、まだ硬直したままだった。そんな心の中を古庄に問いただされて、どう答えていいのか分からなくなった。