恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



「古庄先生は生徒会の方が忙しかったからね。私だって、うちのクラスとテーマが近かったから手伝えたのよ」


 真琴がこう言うのは、古庄が決して非情だからクラスの方に来なかったわけではないことを、生徒たちに知っておいてほしかったからだ。

 夏休み前から休日も返上して、この文化祭に向けて古庄が尽力してきたことを、真琴は誰よりも側で見ていた。
 クラスの方へ顔も出さないところを見ると、きっと文化祭全体を取り仕切るのに大変なのだろう。


「隣同士のクラスでテーマが近かったのは、私たちも助かりました。お互いけっこう協力し合えたし。それに、先生。見て……」


 古庄のクラスの女子が、指差しながら真琴の耳元へ口を寄せた。


「先生のクラスの加藤有紀ちゃんとウチのクラスの溝口くん。この文化祭の準備の間に急接近したんです。多分、付き合うと思います」


 真琴が指し示された方へ目をやると、そこには入学したての頃、古庄に恋い焦がれていた有紀の姿があった。


「セロテープ取って」


「はい、どうぞ」


 〝The Wave 〟の細かいところの修正に余念のない溝口という男子生徒の隣で、有紀は溝口の手足になるように甲斐甲斐しく手伝っている。


 古庄が『結婚する』という噂を聞いたあの時、あんなに泣いていた有紀が新しい恋を見つけたことに、真琴の心は喜びでいっぱいになる。



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