恋はしょうがない。〜職員室の秘密〜



 マス目入りの短冊の余りがないので、真琴が印刷をしに職員室へ走る。そこから戻る時、特別活動部の教員たちに、手伝ってくれるよう声をかけた。


「……そこには、古庄先生もいるんですよね……」


 こわばった顔をして、そう言ったのは理子だ。
 金曜日の夜、恋する古庄の前で醜態をさらしてしまった理子は、恥ずかしさと気まずさのあまり、古庄と間近で接することを躊躇した。


 理子の気持ちは、解らないでもない。でも、学生気分が抜けないのか、私情を挟んで行動を渋る理子に対して、真琴は一つ大きなため息を吐いた。


「一宮先生。生徒たちがやってることは遊びみたいに見えるかもしれないけど、これは私たちにとって仕事だから。自分の気持ちとかそういうことは割り切らなきゃ、自分に与えられた役目は果たせないと思う。…でも、勤務時間は終わってるから、都合が悪いんなら無理に…とは言わないけど……」


 いつも優しくしてくれる真琴から、自分の甘さと未熟さを指摘されて、理子は表情を硬くして黙ってしまった。

 理子を傷つけたかもしれない……。真琴はそう思ったが、自分の言ったことについて謝ったり訂正したりはしなかった。

 それに、ここでぐずぐずしてはいられない。
理子に挨拶の代わりにニコリと笑顔を向けると、踵を返して再び特別教室棟へと走った。

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