あの日あの時...あの場所で






ぼんやりと流れる景色を見つめていた。


懐かしい声が頭に響く。


『瑠樹』

おばあ様....。


庭で犬達とはしゃぐ私を、庭の隅に設えた東屋(アヅマヤ)でティータイムするおばあ様が微笑んで見つめてる姿が思い出された。


懐かしい。

たった数カ月前の事なのに、とても懐かしく感じた。


もう二度と見ることの出来ない光景だからだろうか?


突然無くなった温もりを、未だに探してしまうのは私の悪い癖。


ママが亡くなった時もそうだったと思い出す。


私の大切なものは、この手をすり抜けて流れ落ちてしまう。


俯いた私は広げた両手に視線を落とす。


この手には何も掴めないんだろうか?



大切なものを作るのが怖くなる。


だけど、弱い私は一人じゃ居られない。


自分だけが不幸だなんて思わない。


世の中にはもっと大変な思いをしてる人が沢山いる。


もちろん、悲劇のヒロインになんてなるつもりもない。


ただ、時々こんな風に苦しくなってしまうんだ。


それは唐突に蘇る記憶によって。



視界を窓の外に戻して、首を左右に振った。



ダメだダメだ。

マイナスに飲み込まれてどうするの。

今日は豪と楽しむって決めたじゃない。


本当、最近の私は情緒不安定過ぎる。



ポンと頭の上に乗る大きな豪の手。

豪は何も言わないけど、私に安心と温もりをくれるんだ。


ゆるりと口角を上げる。


振り向かないまま、豪の温もりに寄り添っていた。



ありがとう、豪。


豪の何気無い優しさに、こうやって何度も救われてきた。


咲留が豪を私の世話係りに任命してくれた事を、本当に感謝した瞬間だった。









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