あの日あの時...あの場所で






波の音と風の音が混ざり合う空間。


並んで座った私達は暫しの沈黙を保った。



トテラポットに座ったまま投げ出した足をブラブラさせてみた。


なんて切り出して良いのか分かんない。

聞きたいくせに怖いから。


たぶん、圭吾だって何から話せば良いのかを迷ってるんだと思う。


柊と私の過去に関するものだもんね。









「...あんまり遅くなるのはダメだから話を進めようと思うんだけど。話しても大丈夫?」

圭吾が私の顔を伺うように見た。


「...うん、聞かせて欲しい」

その為に来たんだもん。


膝の上に乗せた両手をギュッと握り締める。



「...本当はさ、俺なんかが口を出しちゃダメなんだと思うんだけど。無気力なキングをもう見てらんないんだ」

地平線へと視線を向けたままそう言った圭吾の横顔は、とても辛そうで。


「...うん」

「だから、余計なお節介だとは思ったんだけど、瑠樹ちゃんに知ってもらいたいと思ったんだけだ。キングがどんな思いで君から離れたのかを...」

私の方を見て優しく微笑んだ圭吾は、勝手でごめんねと謝った。


「...ううん。私も知りたかったから..理由も分からずに苦しんできたから。だからね?教えて、圭吾君が知ってることを」

だから真実を知らなきゃいけない。



「了解。俺がキングに聞いた話を教えるよ」

そう言って、圭吾はゆっくりと話し始めた。


私が知りたくて知りたくて仕方なかった話を。




圭吾の声以外耳に入らない環境で、私は一字一句聞き逃さないように耳を済ませた。



それは悲しくて、そして優しくて、残酷な話だった。


家族に恵まれなかった柊。

私と同じ様に、いつもあの公園に居た柊。


どうして私は気づいてあげられなかったんだろうか?





柊...柊、ごめんね?

柊も辛かったんだよね?



私だけが辛いと思ってた。


でも、違ったんだよね?



「...柊...ごめん...ごめんね?」

ポロポロと流れ落ちる涙を隠すように両手を顔に当てた。


止まらない涙は、後悔なのか悔しさなのか分からないけど。


涙を流さずにはいられなかったんだ。










< 349 / 445 >

この作品をシェア

pagetop