あの日あの時...あの場所で






柊が一人で抱えてきたモノはとても大きいものだった。


私は連絡の取れなかった柊を恨むことしか出来なかったと言うのに...。


柊は私を守ろうとしてくれてたなんてね?



顔を上げて夕日の沈んでいく海を見つめた。


圭吾は私に気を使ってくれたのか、いつの間にか居なくなっていて。

だから、私は遠慮もなく声を上げて泣く事が出来たんだと思う。



見渡せる景色が朱色に染まる。

それは私も例外じゃない。

朱色に染まった自分の両手に視線を落として、さっき聞いたばかりの圭吾の言葉を思い出す。







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キングが瑠樹ちゃんと離れたのは瑠樹ちゃんを守るためだと思う。

瑠樹ちゃんがアメリカに旅立ってしばらくしてから、柊の母親と再婚相手が現れたらしい。

二人の再婚が決まって柊を引き取るために。


再婚相手の男は、柊の本当の父だったらしくてね。


柊の母親はずっと昔、その人の愛人だったらしくてさ。

柊の母親も色んな男と遊んでは居たけど、心の中じゃ別れた柊の父親を思ってたのかもなね。


再会してお互いの気持ちを確かめあった二人は結婚して、柊を引き取った。


前妻とその間に出来た子供は前妻と一緒に交通事故で亡くなってて、血の繋がった柊を跡取りに欲しかったんだろうね。


上加茂組、キングが引き取られたのはそこ。

西の町を牛耳ってるヤクザの組長がキングの父親。


必然的に柊は若頭として組に入ることになってたらしい。


養子じゃなくて実子、そのことが柊をがんじがらめにした。


突然、母親が迎えに来た事に動揺してる上に、自分の父親がヤクザの組長。


柊は荒れて毎日喧嘩三昧になった。

転校してきたばかりの柊は見てらんないぐらいに荒れてたよ。


それでも瑠樹ちゃんの事を忘れやしなかった。


でも、組長である父親に若頭になるために修行しろと言われて、柊は別れを決意した。


一般人の瑠樹ちゃんを自分の運命に巻き込めないと。

大好きで大切だから手放したんだって。


瑠樹ちゃんには裏の世界になんて関わって欲しくないって。

だから、アメリカに居る瑠樹ちゃんと連絡を取らなくなった。

別れを告げることがどうしても出来なくて、狡いとは思ったけど連絡を絶ったらしい。


キングも随分と苦しんでた。


瑠樹ちゃんを忘れようと女遊びを始めて、自分の命さえも軽んじるようになった。

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圭吾が教えてくれた真実は胸を締め付けるモノだった。


柊は一人で悩んで、一人で苦しんでた。


なにも知らなかった私は...なんて愚かなんだろう。





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