社宅アフェクション

「真綾お姉さま？家に着きましたよ？」
「え？あ、ほんとだ」


急にテストで頭いっぱいになっていた私は、どうやって着替えて、どうやって歩いてきたのかの記憶がまったくなかった。


「それじゃまた明日ね、蒼空」
「ねぇ、お姉さま」
「ん？どうしたの？」


303号室のドアノブに手をかけ、その手を見つめたままの蒼空。空気が違う。


「最近ね、りっちゃん、楽しそうなの。りっちゃん、家だとあまりしゃべらない子で、学校のことなんか聞いてもなかなか……」


そうだったんだ。明るい大陸しか、知らなかった……


「でもね、今は学校のこと、部活のこと、楽しそうに話してくれる。両親が死んでからずっと心配ばかりしてたけど、今は安心！」
「蒼空……」
「今日もきっと、テスト前最後の部活、楽しんでいるのかなぁ。よかった、部活にいれて」


“最初は大反対だったけど”と蒼空はこちらに笑顔をむけた。


蒼空の心からの笑顔は、久しぶりに見た気がする。大陸が勝彦と一緒にいるのは嫌だけど、勝彦のおかげで大陸が部活に入れたなら、認めるしかないのかな、なんて思った。