社宅アフェクション
「ただいま」


結局誰にも会うことなく、家についた。あと数分で8時30分になる。


「おう勝彦、遅かったな。飯、食うか。その前に風呂か?」
「父さん、まだ食べてねぇの?」
「もちろんだろ?飯は家族で食うからウマいんだ。お前がビール飲めたらさらに最高だな」
「あと2年待ってくれよ。あ、先に飯」
「はいよ。あと2年かぁ…もうそんな年になったんだなぁ」


荷物を放り、手を洗う俺の横で、ご飯をよそいながら父さんは感慨深そうにつぶやいた。


「なんかジジくせぇぞ?父さん」
「もう十分トシだ。ほら、早く着替えてこい」
「めんどくせぇ」
「夕飯の支度より楽だろうが」


“はいはい”と適当な返事をして、おれは部屋に行った。
着替えを終え戻ると、夕飯が並んでいた。


「いただきます」
「どうぞ。そういや勝彦。最近部活大変なのか?帰りがずいぶん遅くなった」
「部活…野球部ね」


父さんには図書同好会のことは話していない。


「試合が近いから」
「いつだ?」
「来週の土曜。俺、一応出るから。甲子園かかってるし」
「甲子園、かぁ…いやぁ、そこで試合する勝彦、見てみたいなぁ!よし、応援しにいこう」
「え、父さん、仕事は?」


父さんは各週だか、土曜日も出勤する。来週の土曜日は出勤日だ。


「休みをもらうよ。明日から、少し帰りが遅くなるだけだ。勝彦と同じさ」


そう言い、父さんはビールを勢いよく飲んだ。
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