社宅アフェクション
しかし真綾たちと話す時間もないまま、朝学習が始まった。


目黒からは、淡々と現状を伝える内容のメールが届いていた。最後には“よい流れだから心配ない”と書かれていた。


大陸からは、心配する俺への感謝の言葉と迷惑をかけていることへの謝罪、そして俺への応援メッセージが添えられていた。




本当は、みんなに言葉で返すのが筋だろう。
“ありがとう”とか“頑張る”とか、伝えられる言葉はたくさんある。


メールの返信に書いて送りゃあいい。口下手な俺でも伝えられると思う。でもそれじゃあ、軽すぎる気がする。


だったら今の俺にできること──


野球しかない。



「本荘、プリント」
「あぁ」


終わった朝学習のプリントが、後ろからまわってきた。受け取ろうと後ろを振り向いた俺の顔を、酒田はじっと見つめた。


「?」
「…なんかあったのか?本荘」
「なんかって……」
「朝練の時と顔つきが違うような…なんつうか憑き物がとれた、みたいな?」
「……そうか」
「え、なんだよ!急にニヤニヤすんな!」


俺は、ほんの少しだが一歩、踏み出せたのかもしれない。
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