社宅アフェクション
少したった小腹がすく頃、俺はカバンの中身を出した。真綾たちからもらったメニューの試作品。俺も多少アレンジして作ってみた。


「味見してみろ。ただし、マズいは許さねぇ」
「ハードル上げたうえに、プレッシャーかけるね、かっちゃん」
「勝彦、料理できるの!?なんか味不安…」
「アホ。俺は、家では朝飯担当だ。文句は食ってから言えよ。真綾のは聞かねぇけどな」
「なによ、それ!!」


すでに文句を言いながらも、口に運ぶ。そして全員が、口をそろえって言った。


「おいしいっ…」


って───

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          :

帰りは野球やってるのと大して変わらないくらいの時間だったが、いつもの帰り道と違うことは、みんながいることだった。部門に精を出していた、蒼空と由香里ってやつも加わった。


こうして帰るのは、中学以来かもしれない。あの頃と変わらず、俺は斜めに構えて歩く。


「なんか楽しげだな、本荘」
「別に、京子と並んで歩いても楽しくねぇよ」
「さっきから不気味だぜ?笑顔で」
「なっ……笑顔!?俺が!?」
「自分で気づかないのもすごいな」


知らぬうちに、俺は笑顔になってたらしい。俺が笑うのは、大陸といる時だけだったと……


「ほんと、最近変わったよ、本荘」
「何がだよ。みんなそういうけど、俺、変わったつもりねぇぞ?」
「素直になった」
「え?」
「素直になったよ、私らの前でも。お礼言ったり謝ったりさ。自覚ないのか?」


口下手なはずの俺が、そんなこと言うわけ…いや、自覚ないほどに、自然に言えてるのか。


「私らへの気遣い、ありがとな。そんじゃ、また明日──あや子!家に着いたから、またな!」
「京…っ」
「本当だ!いつの間に?じゃあね、京子!また明日!!」


家に消える京子の姿を、俺は見ていることしかできなかった。
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