社宅アフェクション
もしここで、川崎に強烈なヒットでも打たれでもしたら……
2点、3点……下手すりゃ4点、この回でとられてしまう可能性もある。


疲れが出ている遠野では、危険な気がした。
監督も同じことを考えたのだろう。


審判がタイムを告げた。


監督は、投手の交代をしようとしていた。チームの勝利を考えたら、今の状況からは妥当かもしれない。控えの投手だって、実力不足なわけではない。


しかし、聞こえた遠野の一言は意外だった。


「お願いします!俺に投げさせてください!!」


遠野は頑なだった。だけど、分かる。もし俺が遠野の立場だったら同じことを言うかもしれない。
最大のピンチ、すごいプレッシャーだ。でも、逃げたくないんだ。


あいつが投げると言うのなら、俺たちにできることはただ一つ──絶対に捕る。
打たれたって、アウトにしてやる!


監督もその気持ちを優先することにしたのだろう。ピッチャー変わらず遠野のまま、試合は再開した。


遠野の渾身の1球目は、きれいにミットに吸い込まれていった。2球目も鮮やかなカーブを描いて、白石のもとへ届いた。


そして3球目──俺は川崎を見た。やつは焦る様子もなく、むしろ笑みを浮かべていた。
この顔は……俺がフライを打たされた時のと同じだっ……


投げられた3球目を、やつは正確にバットに当てた。すごい音とともに、球は俺のいるライトの方向へぐんぐん飛んでくる。
塁にいたやつらが得点をとるために走る。


マズい。ホームラン級だ。でも……


絶対に捕るっ!!
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