社宅アフェクション
城山くんはストレートをなんとか打ちとり、塁に出た。続くセカンドの天川くんも、自分の得意コースに狙いをしぼり、俊足を生かして1塁へと進んだ。


「ノーアウト1・2塁……正ちゃんっ…」
「会津!敵の心配してんな!!」
「違う!心配してんじゃない!……怖いんだ」
「どういう意味だ…?」
「正ちゃんは自分を追いこめば追いこむほど強くなるんだ…」


そしてレフトの小田原くん。彼がボックスに立つと、川崎正吾の表情が変わった気がした。少し、微笑んだような……


「打った!!小田原くんも打った!!」
「でも…だめぇぇぇ!!!!」
「捕るなぁぁぁ!!!!」


佳乃、京子とともに私は叫んだ。でも……


とうとう勝彦が打席に立った。2アウト3塁。
さっきの小田原くんの打ったボールは、低く伸び、少し下がっていたセカンドに捕られ、カバーに入っていたショートが2塁ベースを踏みながら返球されたボールを受け止めた。


「本荘っ!!打てよ!!!!」
「かっちゃ~ん!!」
「勝彦くんっっっ!!!!」


バットを構える4番打者とボールを構える名投手。ここから勝彦の顔は見えない。見える川崎正吾の顔は……不気味に笑っていた。



両校の声援が響く中、川崎正吾が投げたボールは3球、勝彦がバットを振ったのは2回だった。

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試合の終了を告げるアナウンスが聞こえる。
勝彦は泣いていた。あいつの涙を見たのは初めてかもしれない。
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