社宅アフェクション
「俺ね、勝彦が嫌いだったんだ」
「えっ?」


意外だった。だって、最初に話しかけたのは直人だったから。


「中学校に入って、同じクラスになって、ようやく名前を知れた。その子は花巻真綾。隣には本荘勝彦がいてさ」


そう。出席番号順で、隣同士になったんだ。


「俺は真綾と話すために、勝彦を利用した。本当に仲良くなろうとは思ってなかった。何もしなくても真綾のそばにいれるのに、笑わないあいつが嫌いだった」


笑わないぶっきらぼうな勝彦に、初めて仲良くしてくれたのは、直人だけだった。


「勝彦が妬ましくて憎らしくて…でも一緒にいるようになって、勝彦のことが分かってきて、かっちゃんが羨ましくなった。作り笑いとウソで固めた自分と違う。自分に正直でまっすぐなやつなんだ。真綾のことも、口には出さないけど本当に大切に思ってるんだよね」


そう。そうだよ。私だって分かってたはず…


「俺、かっちゃんと本当に友達になりたいって思ったよ。真綾と仲良くなるための手段じゃなくて、本当に…そしたら毎日が楽しくなって、きっと今の俺は本当に笑えてると思う」


空想の小さい直人の顔とは全然違う。今の直人は、とびきりの笑顔を私に向けた。


「あの窓から見た真綾の笑顔を追いかけて、今の俺があるんだ。ひとりぼっちだった俺に仲間ができて、毎日本当の笑顔でいられるのは真綾のおかげ」


違うよ。それは直人が強い人だったから…私はただ…何も……


「俺ね、好きだよ。真綾のこと。俺に笑顔をくれた真綾が好きだ。これからもさ、俺の隣で笑顔を分けてほしいんだ…って…え~と……」


な…お…と……?


「好きです。仲間としてだけじゃなくて恋人として、俺と付き合ってください」


人生で初めてされた告白は、あまりにも突然だった。
< 253 / 331 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop