社宅アフェクション
ベンチに真綾と腰をかけ、遊びまわるチビらを見ていた。


「きゃ~はっはっはっは!!!!」
「きゃははっ!!きゃはははっ!!!!」


蘭と凛の声が響く。ちょっとした遊具しかないこのせまい公園で、何がそんなに楽しいのか…


「私らも蘭と凛くらいの時、この公園でよく遊んだよね」


懐かしそうに、真綾がつぶやいた。


「あぁ。お前に無理やり引っ張られてな」
「人聞き悪いっ!!」
「事実だ」


真綾は少しムッとしたようだが、小さく息を吸って顔をあげた。


「でさ、ここからD棟見えるじゃん?」
「見えるな」
「あそこから、直人が私たちのことをよく見てたんだって」
「へぇ……」


真綾はなんで急にこんな話をするんだ?
すでに盗み聞きしてしまった話だ。


「あのさ、あの頃から直人が一緒だったらさ、なんか違ってたかなぁ」
「なにが」
「今の私たち。大陸も蒼空も、直人も私も……勝彦も」


だんだん小さくなる真綾の声。俺の名前なんて風にかき消されそうだった。


「まぁ…終わった日のことは知らねぇけど」


俺はベンチから立ち上がった。


「俺は今に満足してるぜ?分かりもしない未来を想像したって意味ねぇだろ」
「かつ…」
「まぁ、真綾がおしとやかなヤツだったらもっと良かったけどな」
「勝彦っ!!!!」


真綾の怒り声とチビらのはしゃぎ声が、家へと歩く俺の背を押す。
……あの客は帰っただろうか。



“心配すんな。何も考えなくていいから”



そうだな。
俺はエレベーターのボタンを押した。
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